2009 Fiscal Year Annual Research Report
近世ヨーロッパにおける神学的ペスト文書-世界の脱魔術化に関する学際的研究
Project/Area Number |
19520641
|
Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
佐々木 博光 Osaka Prefecture University, 人間社会学部, 准教授 (80222008)
|
Keywords | ペスト毒 / ペスト菌 / 天然痘 / ペスト感染説 / 予防接種 / ペスト条例 / 隔離施設 / ペスト病院 |
Research Abstract |
過去二年ドイツのヘルツォーク・スウグスト図書館で、近世のペスト文書と総称される史料、特に宗教関係者や医師によって書かれた文書と取り組んだ。その際カトリック、ルター派、カルヴァン派の三つの宗派のペスト観を浮かび上がらせるよう心がけた。今年度の滞在では行政の対応を明らかにするために、ペスト条例を重点的に検討した。ペスト条例は都市の待医の意見を入れて作成される場合がほとんどで、宗教家よりも医師の意向を反映するのが普通であった。このことが疫病対策の歴史に宗派による陰影をつけることになった。16世紀にはペスト毒の利用という問題が、宗派を問わず医師たちの関心をさらった。ここでペスト毒と形容されているものは、ペストをもたらす物質を指しており、将来発見されるペスト菌につながりうるものである。ペスト毒の利用については、カルヴァン派の医師がこれを積極的に推進しようとし、ルター派の医師はペストの予防や治療におけるペスト毒の利用の可能性は認めるものの、実用には慎重な態度をとった。一方、カトリックの医師たちはこれに真っ向反対した。ペストは毒性が強く、予防接種に不向きなことは17世紀中に誰の目にも明らかとなった。代って天然痘に対する毒の利用の可能性が集中的に議論されるようになる。18世紀の終わりにジェンナーが種痘法を発見するが、種痘のそれ以前の成功例がもれなくカルヴァン派の医師から出ていることが注目される。ルター派の医師も早くから種痘の可能性には気づいていたが、実用にはなお慎重な姿勢を崩していない。カトリックの医師たちはやはり種痘にも消極的に応じた。19世紀に種痘法が普及する速度の違いに、かつてペスト毒の利用に対して各宗派の都市行政がとった対応の違いが反映されていると見ることができる。
|
Research Products
(2 results)