Research Abstract |
本年度は,近年,経済成長の著しいインドおよび中国におけるITサービス業の地域的展開とそれにともなって形成される産業集積地域の実態を解明することを目的とした。その際,第1にITサービス業の地域的な展開過程と集積の実態を,BPO部門の地域展開にとくに注目して明らかにし,第2に,産業集積地域内における企業構成,BPO部門の地域的な動態の二つの側面から,産業集積の特徴を明確化したいと考えた。とくに,本年度は,収集した資料に基づき,インドおよび中国におけるBPO部門の地域的な発展過程に関しての分析を行い,両国におけるITサービス業の構造変化についてまとめた。 分析の結果,北川(2010)において論じたように,以下の点について明らかとなった。すなわち,インドITサービス業は当初,オンサイト方式によるアメリカ合衆国への人材派遣という形態により存立していたが,企業環境の変化や情報通信技術の発展により,インド国内において業務を行うオフショア方式へと転換していった。こうしたオフショア方式は新たなITサービスの勃興に寄与し,ITES-BPOなどのITを活用した関連サービスの輸出という新分野の開拓へとつながっている。インドにおける新たに発展してきたITサービス業は輸出指向型産業としての性格を今まで以上に強化し,インドはITサービスを提供する世界的な中心地としての存在を確固たるものとしている。そうしたITサービス業の急成長を支えたのは優秀かつ豊富な人的資源の存在であったといえる。インドのITサービス業は,これまでの成長を支えてきたソフトウェアサービスの輸出を軸としながらも,その一方で広範なITサービスを展開し,構造変化を伴いつつさらなる発展を遂げるものと期待される。一方,中国に関しては,日本系企業との連関が強く,そうした構造のもとで当該産業は発展しつつあることが判明した。 こうした点が明らかになるなか,新たな研究視角として,当該産業の成長が自然環境の影響も無視できないことが示唆された。北川(2010)で示したように,乾燥地の多くが大規模な重化学工業の発展を望めないなか,持続的な地域発展の原動力の一つとして,ITサービス業の集積が当該地域の経済発展に貢献している,あるいは貢献できうる産業部門であることが理解された。今後,ITサービス業の集積メカニズムの解明のためには,産業の構造や社会文化的な環境のみならず,自然環境も含めた多面的な考察の必要性があり,こうした点が今後の課題となることを認識した。
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