2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19520690
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
千田 稔 Ritsumeikan University, 文学部, 教授 (20079403)
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Keywords | 京都 / 古地図 / 中空 / 禁裏 / 二条城 / 中空表現 / 江戸城 / 二重橋 |
Research Abstract |
禁裏という言葉が発している空間の威厳性と排他性は、何者にも変えられない強い響きをもつ。京都の古地図のすべてではないが、御所の部分を「禁裏」という文字のみ、あるいは菊の紋で表現し、内部については何も描出しない図法が多く用いられている。二条城についても、「二条御城」とのみ記し、内部に関しては表現しない。 しかし、京都の古地図において、御所、二条城の建築物を描くのもあり、上記の地図との表現上の相違に関して、さらに吟味が必要である。 江戸を描いた地図の多くも、江戸城についてはほとんど「御城」という文字あるいは葵の紋のみで、内部は白地で、詳細な表現は一切されていない。そのような地図表現は、明治以降の官製地形図の皇居にも戦後まで指摘することができる。つまり、皇居の部分は、まったくの空白表現となっている。都市を作りあげている中枢部を空白として、描出するのは、「見せてはいけない空間」であるからなのだ。地図上の「中空表現」によってその部分の神秘性が高まるという支配原理の効果も発信されることになる。 地図表現を避けた皇居は、別の視点からその存在を表現する。それは、二重橋の写真である。観光用の絵はがきに、それが典型的で、二重橋を真横からみるアングルで撮影されている点に注目したい。その視覚は可能な限り江戸城の建造物を見せないで、近代工法による橋梁の構造を見せようとするものである。そのことから、徳川の遺産を継承する皇居を隠蔽するという意図を読みとれることができる。その点からも、皇居は「見せてはいけない空間」として意識されているが、二重橋の写真においては、「江戸」という表現を、隠蔽しなければならなかったのだ。
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