Research Abstract |
本研究の目的は(1)華橋史の掘り起こしと記録化,資料の収集と展示,有形文化財の保存と再建,無形文化財の維持と創出にかかわる華僑の意識,(2)各地の中国人墓地の実態調査を通じ,墓地と華僑,地元との関係,地域間の差異とその原因を明らかにすることである。今年度は以下の調査研究を行ったが,世代交代が進むなか,老華僑へのインタビューにより,生きた歴史を記録に留めることができたことは大きな成果であった。 1.函館の中華山荘(中国人墓地),中華会館,長崎の稲佐国際墓地,唐人屋敷跡の福建会館,時中小学校などの施設について,関係者へのインタビューと文献収集を行った.日中関係や華僑社会内部の変化に左右されながらも,華僑全体の文化財として守ってきた歴史と関係者の意識が明らかになった。また,華僑の墓制,葬制に関して,日本での変化,函館と長崎との地域差を確認できた。 2.長崎崇福寺で開催される普度勝会(盆行事)の調査を通じ,担い手である福建華僑が中国の伝統行事を守ってきた一方で,崇福寺の実質的な檀家組織となるなど,地元社会に深く根ざしている実態が明らかになった。また,長崎市民祭ランタンフエスティバルの立ち上げの原動力となった華僑および長崎県職員へのインタビューを通じ,華僑と地元自治会,商店街双方の当惑,衝突そして協力に至るまでの経緯を明らかにした。 3.全国各地に定住する福建華僑の日本におけるルーツともいえる九州では,福建華僑間に姻戚関係が結ばれ,相互扶助の絆として大きな役割を果たしてきた。長崎,福岡,熊本,久留米において老華僑から移住の歴史とそのネットワークに関する聞き取り調査を行い,劉,陳,葉,翁,林,張,鄭姓など主要な一族の殆どが姻戚関係によって結ばれ,そのネットワークが日本全国に広がっていることが明らかになった。
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