2010 Fiscal Year Annual Research Report
英米法における時間(歴史)の要素の存在構造と現行法への示唆
Project/Area Number |
19530001
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大内 孝 東北大学, 大学院・法学研究科, 教授 (10241506)
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Keywords | ブラックストン(Blackstone) / アメリカ不法行為法 / アメリカ契約法 / 訴訟方式(forms of action) / コモン・ロー訴答(pleading) / 再審理(new trial) / アメリカ法の形成 |
Research Abstract |
1,前年度までの作業を踏まえ、英米法における時間(歴史)の要素の存在構造それ自体に関して考察し特にアメリカ法制史学を、純粋に歴史学としての再構築することの可能性とその意義に関する考察を深めた。 2,具体的には、19世紀のアメリカにおける訴訟手続の簡略化と、その実体法への影響のあり方を、特に不法行為法あるいは契約法の近代的生成あるいは変容の中に見、その姿を理論的に定式化することを試みる論文の執筆に取り組んだ。独立後のアメリカにおいて用いられたのは、基本的にイングランドの訴訟手続であったが、その強く中世的な性格が、社会的・法技術的実態にそぐわなくなるにつれて、アメリカ法曹は独自の訴訟手続へと実務上変化させていった。その典型が、一方では、コモン・ロー訴訟手続の基本であった訴訟方式と訴答の簡略化であり、他方それと平行して、当然には拡大するはずの陪審の法決定権を、再審理制度を拡大することによって、裁判所が制限することが可能な法実務を、特段の立法の根拠なしに確立させていった。これによって、外見上は中世的な訴訟手続を用いながら、折しも進行しつつある産業革命に伴う社会・経済の変化に対応しうる、実体法の近代化を、アメリカの法曹が実務上編み出していった。英米法の存在根拠である時間.(歴史)の要素を前提にしながら、巧みに近代に即応しうる存在構造を構築した歴史の実例であり、これがまた、「アメリカ法の形成」の重要な一局面であると言える。 3,これと同時並行に、アメリカ法の形成に歴史上極めて重要な役割を果たしたと言われる、ブラックストン著『イングランド法釈義』が、従来の類書とは全く異なって、訴訟方式の体系ではなく、「権利 rightsおよび「権利侵害 wrongs」の体系で書き上げたことに着目し、具体的な法制度の展開とのかかわりに注目して、今後のさらなる研究のための観点を整理しつつある。
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