2009 Fiscal Year Annual Research Report
判例変更と制定法の訂正 - 理論と動態に関する比較方法論的研究
Project/Area Number |
19530017
|
Research Institution | Okayama Shoka University |
Principal Investigator |
青井 秀夫 Okayama Shoka University, 法学部, 教授 (70004158)
|
Keywords | 判例変更 / 制定法の訂正 / 法秩序の統一性 / 裁判官による発展的法形成 / 解釈の変更と解釈の誤謬 / 最高裁の大法廷判決 / 判例拘束性の法理 / 比較方法論 |
Research Abstract |
この申請研究では、裁判官が判例法拘束性から逸脱する場合(判例変更)および制定法拘束性から離脱する場合(制定法訂正)にみられる屈折した実務に焦点をあてて、諸国の裁判の動態と構造を比較しようとする目標を立てた。元来の目標をにらみつつ、最後の1年間は、第1の課題として、英独米3国の法秩序の構造差を対比するなかで、日本の裁判所の法実務、とりわけ日本流の判例変更を、どのように位置づけるか、という問題に力点をおいた。日本法の場合、諸国のうちのどの法秩序に最も近いか、あるいはむしろ大陸法的要素とイギリス的要素の独特の結合とみなすべきか、といった問題に関心を注ぎ、私見の構築に向けて最大限努力した。 他方、第2の課題として、とりわけ独仏で話題を呼んでいる「不当な出生」の議論を試金石として取り上げ、諸国の法秩序の構造差がどのようにその問題に影を投げかけているか、にも注目した。可能な限り努力したが、この医事法問題の全容解明のためには、取り上げるべき側面があまりにも多くかつ錯綜しており、思い通りの成果到達までは、まだ多少の時間がかかりそうである。今回の収穫はむしろ、より重要な第1の課題の面で得られた。というのも、その分析の過程で、わが国の最高裁の小法廷判決の実務では、煩瑣な手続の必要な大法廷判決を回避するために独特の手法でしばしば判例変更を回避したり、また同じく違憲判決を迂回するため独特の方法的操作を駆使しているという有様が非常に鮮明に浮かびあがってきて、この問題こそこれまで展開してきた研究の最も中核的な成分であると確信するに至った。そうした判例変更回避や違憲判断回避のためのわが最高裁の屈折実務を英米独と対比すると、わが国の法実務は、英国とドイツの中間タイプとして有意味に位置づけうる。こうした新たな着想は今回の研究の結末であるとともに、より具体的なつぎの研究の出発点ともなる。それとともに、今回の研究は、1つの生産的な転換点に到達できかつ終結したと考えるものである。
|