2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19530109
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
阪野 智一 Kobe University, 国際文化学研究科, 教授 (10162299)
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Keywords | ポンド切下げ / ウィルソン政権 / 「3つの輪」ドクトリン |
Research Abstract |
本年度は、1967年ポンド切下げに至る国内政治過程と対外的関係との関連に焦点を当て、この点に関する資料収集と分析を行った。67年11月のポンド切下げは、同年5月に行われたEECへの2回目の加盟申請と連動しており、英連邦、アメリカ、ヨーロッパという戦後イギリス外交政策を基礎づけてきた「3つの輪」ドクトリンの軸足が揺らぎ始めたことを示す、いうなれば結節点に位置する事例としての意義をもつ。当初、ウィルソン首相がポンド切下げに反対し、デフレ政策を主張していたのは、1949年のアトリー政権によるポンド切下げの記憶から、通貨切下げが「社会主義政党の『処方箋』」と見なされることを避けたいという点に加え、海外に居住するポンド資産保有者との長期的関係、すなわち英連邦との関係を維持したいというのが、より本質的な理由であった。他方、ブラウン経済問題相は、イギリスが世界的役割を保持し続けるには、EECに加盟すべきであり、EEC加盟前にイギリス経済を整理するためには、ポンド切下げを行う必要があると主張していた。最終的にウィルソン政権はポンド切下げに踏み切るが、そこには、ドル防衛の手段としてポンド切下げを求めるアメリカからの要請や圧力が作用していたことが明らかになった。そして、ポンド切下げ断行は、結果的に、EEC加盟交渉を継続させる、前提条件でありかつ原動力となった。まさにポンド切下げは、戦後イギリスが対英連邦の関係から、対ヨーロッパ関係へと外交政策の比重を高めていく象徴的な事例であったと言える。
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Research Products
(1 results)