2009 Fiscal Year Annual Research Report
近代イギリスにおける政治的賢慮概念の展開―諷刺文学の政治思想史的研究―
Project/Area Number |
19530110
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
岸本 広司 Okayama University, 大学院・教育学研究科, 教授 (20186216)
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Keywords | 近代イギリス政治思想史 / 政治的賢慮 / オーガスタン時代 / 諷刺文学 / ジョナサン・スウィフト / ヘンリ・フィールディング |
Research Abstract |
研究実施計画の最終年度である平成21年度は、前年度に引き続いて、まずジョナサン・スウィフトを取り上げ、スウィフトの諷刺文学を政治思想的観点から考察した。その結果、スウィフトの諷刺はモラリズムと穏健な懐疑主義に立脚していること、スウィフトにおいて大事なことは、世界と人間を認識するにあたって熱狂とユートピア的幻想から目覚めていること、その政治的立場は中庸をとるがゆえに保守的であったが、人間と社会を見る目は寛容で、平衡と良識を備えたものであったこと、そしてそうした精神から生み出された諷刺は、政治的賢慮概念をスウィフト的論理で展開したものであったことが明らかとなった。その成果の一部は、「スウィフトとビッカースタッフ・ペーパーズ(二)」と題して『岡山大学法学会雑誌』(第59巻1号、2009年)に公表した。次いで、ヘンリ・フィールディングを取り上げた。フィールディングの諷刺概念を把握するためにとくに重視したのは、宰相ウォルポールの人間性およびウォルポールに代表される近代イギリスの政治的・社会的腐敗を批判したThe Life of Mr. Jonathan Wild the Great(1743)である。この作品を綿密に読解しながら、フィールディングの諷刺文学における政治的賢慮概念の本質を探った。彼の諷刺における最も重要な言説は、「偉大さ」と「善良さ」であった。フィールディングは、偉大さは高慢や残忍をもたらすとして排除しつつ、善を尊び善の実践を説いていったが、この場合の善良さこそが賢慮の変容ないし展開形態であったと考えられる。彼は自らの賢慮概念を諷刺作品のなかに盛り込む一方、法律や法制度の改正などの社会改革運動に具体化していった。そしてこうした点から、フィールディングの諷刺文学において政治的賢慮概念が新たな展開を見せていることが明らかとなった。
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Research Products
(1 results)