Research Abstract |
LSEの学派的特徴を,F.A.ハイエク,L.ロビンズの市場経済論でもなく,G.D.H.コール,H.ラスキの社会主義論でもない,「公共政策論」の系譜に着目して位置づけるのが本研究の目的である。19年度は,研究の出発点として,ウェッブ夫妻の行政学的経済思想を再構成し,その初期LSEへの影響を確定するという計画をたて,実行した。このことは本研究の全体の中では,「スペンサーの社会進化論から社会制御へ」という構図をもとに,社会制御の額としての行政学的経済思想の理論的摘出を行い,LSE設立の経緯と戦時経済による変遷を経て,「産業の民主的コントロール」論に結実する過程を明らかにすることを意味する。理論的な面では,ウェッブ夫妻における「社会制御」の視点がH.スペンサーの「社会進化論」の批判的超克によって生み出された点を明らかにすることとした。具体的には,スペンサーとウェッブとの関係について,ビアトリス・ウェッブの自伝『私の徒弟時代』My Apprenticeship1926,や夫妻の京都である『社会科学の方法』Methods of Social Study1932,スペンサー全集などを活用し,両者の比較を行った。この理論的検討を踏まえて,論文「福祉国家形成期における社会理論の-断面-ビアトリス・ウェッブの「応用社会学」とスペンサー」を公表し,ウェッブのスペンサーからの脱却が,文字通り,近代の福祉国家形成の基礎理論となっている点を明らかにした。具体的には,社会制御という観点は,ビアトリスの消費者組合論を経て,行政国家のガバナンス論にも展開していく。議会と行政機関を一体のものと把握するのではなく,これを分離して,一般市民の政治的理性の成熟をもとに,行政機構をガバナンスするという近代政治理論の先駆でもあることを明らかにした。なお,その知見の一部を活用して論文,「介護保険と低所得者世帯」では,日本の福祉国家制度についても,ガバナンスの視点からの情報開示が必要であることを示した。
|