2010 Fiscal Year Annual Research Report
少子高齢化・人口減少社会における租税・社会保障制度についての研究
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19530276
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
岡本 章 岡山大学, 大学院・社会文化科学研究科, 教授 (10294399)
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Keywords | 少子高齢化 / 人口減少社会 / 税制改革 / 公的年金改革 / シミュレーション分析 / パレート改善 / 移行過程の分析 / 消費税 |
Research Abstract |
わが国では2004年に公的年金改革が行われたが、少子高齢化の急速な進展の下では、十分な改革とは言い難いものであり,抜本的な改革の必要性が高まってきている。本研究では、実際に現実的な改革案として現在わが国で真剣に議論されている、公的年金の有力な改革案について、コンピュータを用いた数値解析を行うことにより、将来世代の厚生まで考慮に含めた分析を行った。具体的には、ライフサイクル一般均衡モデルによるシミュレーション分析の手法を用いて、基礎年金の全額を消費税で賄う改革案、また、報酬比例年金(二階建て部分)を廃止し、公的年金を基礎年金のみにする改革案が、現在世代・将来世代の各世代、およびそれぞれの世代の低・中・高所得層の家計の効用に与える影響について分析を行った。 その結果、消費税への依存をより高める、このような改革案は、資本蓄積を促進し、将来世代の厚生を高める一方で、現在世代の一部の世代の厚生を大幅に引き下げることが確認された。そこで、改革案が全体として、経済厚生を引き上げるのかどうかを検証するために、LSRA(Lump Sum Redistribution Authority)transfersをモデルに導入した。これは、改革後に効用が改善する世代も悪化する世代もあるが、各世代の家計に(プラスまたはマイナスの)一括金の移転を行うことにより、一旦、全ての世代が改革前の効用と同一水準の効用を維持できるようにするものである。そして、改革の結果、全体として経済厚生が改善(悪化)しているのであれば、このような資金移転を行った結果、プラス(マイナス)の剰余が発生することになる。 シミュレーション分析の結果、公的年金を基礎年金のみに限定し、その全額を消費税で賄う改革を行った場合でさえも、パレート改善となる(すなわち、一括金の移転後にプラスの余りが発生する)ことは非常に難しいことが示された。つまり、現在わが国で積極的に議論されている公的年金の改革案は、現在世代よりも将来世代の厚生を高くウェイト付けするような社会厚生関数を考慮しない限り、経済学的には支持されないことが明らかとなった。
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Research Products
(3 results)