2010 Fiscal Year Annual Research Report
市場規律とプルーデンシャル規制を併用した金融システムの再設計
Project/Area Number |
19530284
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
前多 康男 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (60229317)
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Keywords | 市場規律 / 劣後債のプレミアム / 預金者と債券保有者 |
Research Abstract |
金融機関に対して市場規律を働かせることができる経済主体は当該金融機関の債権者であり,具体的には預金者と債券保有者である.この2つの経済主体の内でも情報生産の優位性と言う観点から債券保有者からの規律付けに期待が持たれており,特に劣後債の保有者による規律付けが最も効果的であるとされている.一昨年までの研究では,このような観点も含めて市場規律の基本的な考え方をまとめ,劣後債による規律付けに関する既存文献の整理を行なっていた.欧米においても我が国においても,劣後債による規律付けが効いている結果が出ており,預金者による規律付けに関する考察も行なってきた.預金者は,情報弱者であると言われているが,欧米の実証分析によると,預金者も銀行の財務内容に適切に反応していることが明らかになってきている.昨年度は理論的な部分のモデル構築を行なった.本年度は,昨年度に構築した理論モデルを拡張し,劣後債のプレミアムの変化を説明するモデルの構築を行なった.劣後債のプレミアムの変化は,金融機関の財務状況を適確に反映していることが明らかになった.つまり,劣後債の規律付けに関しては,劣後債のプレミアムが金融機関の財務内容を反映するものとなっており,また,預金上昇率も金融機関の財務内容などのハードデータを反映するものとなっている.これらの実証結果から判断すると,我が国において市場規律は十分にその働きを期待できる状態にあると思われるが,銀行おいては予見的な伝染効果が,信用組合については純粋な伝染効果が,それぞれ無視できない程度に存在していることも事実であり,市場規律の導入に向けては,これらの金融機関の預金者の行動に注意を払う必要があると言える.
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