2008 Fiscal Year Annual Research Report
戦前日本の金融システムの進化パターン---制度変化のメカニズムからの接近
Project/Area Number |
19530289
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
寺西 重郎 Nihon University, 商学部, 教授 (70017664)
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Keywords | 株式取引所 / 情報効率性 / 仲買人 / 投資家社会 / 株主総会中心主義 / レントナー的投資家 / 企業家的投資家 / 名望家的投資家 |
Research Abstract |
今年度は引き続き戦前期の金融市場に関して、主として次の点を検討した。第一に、前年度で着手した株式取引所の効率性の問題では、1893年取引所法の下で生じた取引所と仲買人による共同利益の極大行動が、仲買人の逆選択を通じてその質の劣化をもたらしたことを示した。関連して、株式市場の価格形成の情報効率性に関して、弱効率性の点では明治の株式取引所は戦後以上の効率的であったが、企業の収益性などにかかわる情報効率性については(準強効率性)恐ろしく不十分であったことを示した。戦前の資本市場を理解するには、マクロ的な企業の資金調達面や株主主権といった企業統治面上の効率性に加えて、こうした側面も無視すべきでないといえよう第二に、戦前期とくに明治大正期における投資家社会の構造について一種の包括的な検討を行った。まず、谷本雅之・宮本又郎に従って、投資家層を、企業家的投資家、レントナー的投資家および名望家的投資家に分けて投資家行動を検討したのち、当時の株式投資家が人口比でどのくらいの比重を占めていたかという点を検討した。基準は、所得の5%以上を配当利子収入から得ていること、また株主総会で結託すればある程度の力を持てることなどである。推計は多くの過程を含む概算でしかないが、結果的に当時の経済学的に見て意味のある投資家層は、せいぜい各府県で数千人であるということであった。これは確かに大胆な作業と結論であるが、この結論から、戦前期の投資家社会が極めて限定されたメンバーで情報の内部化して集団であったことが推察される。株主総会中心主義とか株式担保金融とかといった当時の資本市場の制度的特質はこうした投資家社会の成り立ちと不可分な関係にあると考えられる。
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