Research Abstract |
わが国のハンセン病問題は,患者さんたちに「療養所」への収容を強いた「強制隔離絶滅政策」として特徴づけられる。このことは,同時に,ハンセン病の治療をも「療養所」内に隔離したことを意味し,かつは,強制収容にともなって社会的な偏見と恐怖心をあおったため,市民社会のなかに,ハンセン病罹患者にとっての「居場所」をなくしたこと,家族もまた社会的忌避・迫害の対象とされたことを意味する。ゆえに,ハンセン病問題の社会学的調査は,「療養所内のハンセン病問題」のみならず「市民社会のなかのハンセン病問題」の調査研究をもって,はじめて全体像の解明に迫りうる。 2007年度には,多磨全生園,松丘保養園,星塚敬愛園,宮古南静園,関西地方,九州地方でフィールドワークを実施し,入所者15名(その多くが社会復帰経験をもつ再入所者であった),退所者8名,退所者の家族1名からの聞き取りを実施できた。 2007年5月に,栗生楽泉園のある群馬県草津市で開催された「ハンセン病市民学会第3回交流集会」の分科会で「子どもが差別を受けたことがいちばん悲しい-ハンセン病療養所退所者の60代男性からの聞き取り」と題する報告をおこない,会場にいた語り手本人にも喜んでもらえたことは,調査研究者として喜ばしいことであった。まだ聞き取りのすべてのトランスクリプトを作成できたわけではないが,資料の整理,事例の分析を積み重ね,ハンセン病問題の構造的特質の別出に迫りたい。
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