Research Abstract |
わが国のハンセン病問題は,患者さんたちに「療養所」への収容を強いた「強制隔離絶滅政策」として特徴づけられる。このことは,同時に,ハンセン病の治療をも「療養所」内に隔離したことを意味し,添つは,強制収容にともなって社会的な偏見と恐怖心をあおったため,市民社会のなかに,ハンセン病罹患者の「居場所」をなくしたこと,家族もまた社会的忌避・迫害の対象とされたことを意味する。ゆえに,ハンセン病問題の社会学的調査は,「療養所内のハンセン病問題」のみならず「市民社会のなかのハンセン病問題」の調査研究をもって,はじめて全体像の解明に迫りうる。 2008年度には,多磨全生園に4回,松丘保養園に1回,星塚敬愛園に1回,栗生楽泉園に11回訪問し,入所者16名(退所経験をもつ再入所者も含む)のほか,療養所の元職員,元准看護婦,元介護助手各1名からの聞き取りを実施できた。また,療養所以外で,社会復帰者1名,ハンセン病病歴者の配偶者1名,療養所の元副園長1名,さらに,「ハンセン病違憲国賠訴訟」にかかわった弁護士3名からの聞き取りを実施できた。 2008年度について特筆すべきは,栗生楽泉園入園者自治会が『栗生楽泉園入所者証言集』の作成を企図し,請われてわたしがその編集委員会委員長に就任し,2008年8月以来,『証言集』の編集作業を精力的に進あてきたことである。『証言集』には,入所者・再入所者・退所者あわせて51名の病歴者の「証言」が収録され,2009年の夏には出版の予定。当事者のライフストーリーが,これだけの規模で集合的に資料化されることは,これが初めてであり,ハンセン病問題にかんする社会学的な基礎姿料がここに整備されることになったと言って過言ではない。
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