2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19530442
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
材木 和雄 Hiroshima University, 大学院・総合科学研究科, 准教授 (70215929)
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Keywords | クロアチア内戦 / セルビア人 / 難民の帰還 / 社会有住宅の居住権 |
Research Abstract |
本年度は、近代以降のクロアチアの民族問題を要約した上で、1990年代の内戦に伴うセルビア人の難民化と戦後の帰還の状況を調べた。その結果、セルビア系住民の帰還を阻害してきた最大の問題は住宅問題であることが分かった。その場合、住宅の所有形態によって二種類の問題がある。 一つは公有住宅の居住権の問題である。クロアチアの都市部では住民の大半は公有住宅に居住していた。内戦前、この権利は法律によって特別に保護され、所有権に近い性格を有していた。しかし、内戦の間に居室を不在にしていたセルビア人は、クロアチア政府によって住宅の居住権を剥奪された。セルビア人が住んでいた居室は多くの場合にクロアチア系住民に割り当てられた。その後、政府は公有住宅の私有化を実施し、各居室をその居住者に優待価格で払い下げた。セルビア人が住んでいた居室も別の人物の私有財産となった。そのため、クロアチアの都市部でのセルビア系難民の帰還は著しく少ない。セルビア系住民が喪失した公有住宅の居住権の回復や補償は未だに解決の展望が見いだせない状況にある。 もう一つの住宅問題は私有住宅の問題である。これはさらに二つのタイプに分かれる。第一に内戦の期間中にセルビア系住民の私有住宅が破壊・略奪されたり、放火されたりして居住できなくなったことである。第二に破壊や放火を免れた住宅が内戦後にクロアチア政府によって一時的に接収され、住宅を求めるクロアチア人に割り当てられたことである。当局の黙認の下で不法な占拠も起こった。住宅の再建と解放、元の所有者への返還は近年になってようやく大きな進捗が達成された。しかし、それが大幅に遅れたことは多くの難民を国内外の避難地ないし難民キャンプに足止めにし、劣悪な居住環境の下に置いたり、帰国を断念させたりする結果を招いた。
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Research Products
(3 results)