Research Abstract |
本年度は,研究課題の理論的研究を核としながら,併せて実証的研究を行い,次年度の研究の枠組みを明らかにした。 理論的研究は次の5点からなる。1.従来の行為の概念を洗い直して,行為が現代認識,目的,手段を伴うものであり,さらには行為が世界観と自己観から切り離せないものであることを明らかにした。それが宗教的行為であることから,たとえ心理学的に行為の研究を進めるのであっても,宗教的行為を排除しては行為研究が成り立たないとの認識に至ったのである。2.そこで宗教的行為に着目し,上座部仏教における宗教的行為,なかでも歩く瞑想を求めてタイに出張し,ワットでそれを体験し,また宗教行為とその実践の関係に関する文献を収集し,検討を加えたのである。歩く瞑想はそれ自体が目的であり,行為の範囲を拡大するものである。3.そして,宗教的行為を含む行為一般の深層にある心的機序を純粋経験,覚自証から検討し,行為研究の理論的枠組み,および方法を明らかにした。4.また,熟達者の行為を観察し,熟達行為の心理的機序に関する考察を進めた。5.外部の講師を招き,「身体としての精神」,「カルマと行為」,「リゾーム」についての研究会を実施した。 また,理論的研究と並行して実証的研究を次の3点から実施した。1.研究代表者である野村は自伝的記憶の直接的検索に関する実験を行ない,現在論文を投稿中である。2.研究分担者である金敷は,意図-行為-表象の循環の内部とその循環から排除された外部との対比関係を明らかにするために,実在についての調査を実施し,その結果を日本心理学会で報告した。3.研究分担者である森田は,状況に適応した行為の遂行を支えている認知的メカニズム,なかでも記憶表象と想起意図との関係をあきらかにすべく3つの調査を行ない,その成果を論文として公表している。
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