Research Abstract |
敵意,抑うつ,神経症傾向という3つの心理的特性はそれぞれ異なる特性であるにもかかわらず類似した身体疾患のリスクとなることが知られているが,そこからこの3者に共通する何等かの要因が存在している可能性が考えられる.そのような共通要因としてコントロールの不可能性の認知を仮定し検平成19年度にその検討を行った.しかし,その際作成したコントロール不可能性の測定尺度は,抑うつ,敵意,神経症の共通要因であることが認められたものの寄与する割合は比較的低かった.ただ,この研究で用いた尺度はコントロール不可能性の構成概念を十分に検討したものでもなかったので,本年度は,そうした問題点を受け再度調査を行った.まず,106人を対象に行った予備調査で,コントロール不可能性の認知を,(1)対処行動のコントロール不可能性,(2)認知されたコントロール不可能性に分け,尺度を作成した.次いで,大学生358人を対象とした調査で,このコントロール不可能性に関する尺度に加え,抑うつ,敵意,神経症傾向の各尺度を実施した.結果は,偏相関分析によって検討されたが,抑うつ・敵意・神経症傾向の3者の共通要因として寄与の割合が高いのは対処行動のコントロール不可能性のような行動の有効性に関する認知ではなくより一般的な状況に対する"認知されたコントロール不可能性"であった.これは心疾患との関連が指摘されているシニシズムに近いもののように思われた. 以上の成果は,日本パーソナリティ心理学会第18回大会,千葉大学教育学部研究紀要第58巻に発表したほか,本研究を実施する課程で検討した文献を展望した著書を「健康心理学入門」(島井編,有斐閣刊)の中の1章としてまとめ出版した.
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