Research Abstract |
本研究の目的は, 軽度発達障害児の認知機能を生物学的水準で客観的に評価することである. 特に, 発達障害の多くについて前頭葉機能の問題が指摘されていることから, 本研究課題では, 前頭葉機能と関連する「環境の変化」に対する認知特性に注目し, これを評価しうる課題としてディストラクション効果を用いる. ディストラクション効果とは, 求められている課題とは無関係な刺激属性の逸脱に注意が捕捉されることにより, 求められる課題遂行が阻害される現象, 例えば, 図形の形を弁別中に図形の色や大きさが逸脱すると, 求められている形の弁別に要する時間が延長したり誤答が増えたりする現象である. 本年度は認知機能評価に用いる課題を決定するための基礎研究に加え, ADHD児を対象とした実験を行った. ここではADHD児を対象とした実験を報告する(なお, 研究棟改修工事で実験室が使用できなかったため, この実験は研究協力者により他大学の実験室にて行われた). ADHD児の高い転動性が後期処理である認知コントロールの問題なのか, あるいは初期知覚処理に起因するのかを検討するために, ADHD児および定型発達児が視覚弁別課題中の事象関連脳電位(ERP)を記録した. 課題は, 課題とは無関係に低頻度で生じる逸脱を無視しつつ, 標的刺激にのみ反応することであった. 逸脱は, 変化条件では課題とは関わらない刺激属性の変化, 出現条件では刺激の周りへの妨害刺激の出現であった. 定型発達児に比べ, ADHD児は両条件のすべての刺激に対して小さなP1を惹起した. また, 定型発達児は両条件での逸脱刺激に対するP3に違いはなかったが, ADHD児は出現条件の方が大きなP3を惹起した. P1は視覚野での初期知覚処理を反映し, その振幅は空間的注意に影響される. 他方P3は後期の注意配分処理を反映する. ここでの結果は, ADHD児の高い転動性は初期知覚処理, すなわち, 注意すべき領域への空間的注意の困難, に起因する可能性を示している.
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