Research Abstract |
平成20年度の研究では,「代数学習の質的深化を促す数学的活動の連鎖」について理論的な考察を行いながら,中高接続に焦点をあてた代数の数学的活動の開発,その数学的活動を取り入れた教授実験を行った。また,実施された数学授業やインタビュー調査などを臨床的に分析することを通して,「質的深化を実感させる内省の役割」についての考察を行った。 数学学習の質的深化とは,学習者が今までに学んだことを整理し,活かして新たなことがらを洞察する過程と,新たに学んだこととの対比のもとに今まで学んだことがら等に新たな意味を生成する過程との繰り返しにより行われる,学習者の認識の変容であり,学習活動を通した数学観の形成である。 まず,代数学習の質的深化の様相を具体的にとらえるため,中学校の数学学習に焦点をあて「語りきれないことがらの存在を意識し,そのことがらに迫る」(洞察)の事例,「既に学んだことがらと関連づけながら,数学的な事象に対して新たな意味の形成をする」(新たな意味形成)の事例の収集と,その分析を行った。続いて,代数学習の質的深化の様相と内省の役割を分析するために,中高接続に焦点をあてた代数の教授実験を行い,そのデータを分析した。一つは静岡地区で行った「CASを活用したx^n-1の式の因数分解に関する性質を探求する」ことに焦点をあてた授業であり,いま一つは長野地区で行った単元「平方根」の授業である。前者では,平成19年度の分析でみえにくかった「認識のゆらぎの発生,ゆらぎの自覚,ゆらぎの超克,認識の深化」の過程を,抽出した学習者の学習過程の分析およびインタビュー調査から考察した。例えば,学習者は衝撃を受けたり,美しさを感じた因数分解の性質を一般化して適用する傾向があること,因数分解をする行為を具体例でふりかえることや,他者との議論を通して自分の因数分解に対するとらえを強く意識することから,洞察や新たな意味形成が生じていた。後者では,有理数の世界から無理数の世界に接近し,近似し,無理数の概念を獲得する「平方根」の学習過程を分析することから,学習の質的深化の様相を分析している。
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