Research Abstract |
Rを種数正のリーマン面,すなわち,把手をもつリーマン面とする。幾何学的交点数a×bが1に等しいR上の単純閉曲線a, bの組x={a, b}を,Rの把手の印と呼ぶ。これは,Rの把手を指定している。組(R, x)を印付きリーマン面という。R'を種数正の別のリーマン面,x'={a', b'}をR'の把手の印とする。正則写像f : R→R'がa, bをそれぞれa', b'と自由にホモトピックな曲線に写すとき,fを(R, x)から(R', z')への正則写像という。 把手と塊界成分をちょうど一つずつもつ開リーマン面を穴あきトーラスと称する。これは,把手をもつ開リーマン面のうちで最も基本的なものである。印付き穴あきトーラスの全体は境界付きの3次元実解析的多様体をなしている。今,印付きリーマン面(R, x)が与えられたとき,正則写像(T,η)→(R, x)が存在するような印付き穴あきトーラス(T,η)を考察した。Rの適当な被覆リーマン面をとれば,初めからRを穴あきトーラスと仮定しても一般性を失わないことが簡単に知られる。 Rを穴あきトーラス,x={a, b}をRの把手の印とするとき,aの自由ホモトピー類の極値的長さを(R, x)の基本極値的長さと呼び,E[R, x]で表す。基本極値的長さは,穴あきトーラスの等角写像の理論において,基本的な役割を果たすことが知られている。fを穴あきトーラス(T,η)から(R, x)への正則写像とする。fが単射ならば不等式E[T,η]〓E[R, x]が成立するが, fが単射でなければE[T, x]<E[R, X]となることもある。しかし,(R, x)を固定したとき,E[T,η]は下に有界であり,E[R, x]を用いてE[T,η]の下からの評価を具体的に与えることに成功した。
|