2007 Fiscal Year Annual Research Report
中性子星・ブラックホール連星の合体に対する数値的研究
Project/Area Number |
19540263
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
柴田 大 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 准教授 (80252576)
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Keywords | 宇宙物理 / 相対論 / ブラックホール / 中性子星 / 重力波 |
Research Abstract |
中性子星とブラックホールからなる連星の合体は、近い将来重力波検出器で観測されるであろう重力波を放射する強力な重力波源の1つである。またその合体時は、短時間に大量にγ線を発生する天体現象であるγ線バーストの母天体としても有力視されている。これらの理由のため、合体現象を解明することが理論宇宙物理学者に求められている。 合体現象解明のためには、一般相対論的な数値流体シミュレーションが不可欠であるが、我々の研究以前にそのようなシミュレーションが実行されたことはなかった。本研究課題では、それを世界で初めて実行し、合体現象を明らかにすることを目的としている。特に中性子星が潮汐破壊される場合に着目し、どのような特徴の重力波が放射されるのか、および合体後降着円盤は形成されるのか、を明らかにすることを目的に研究を行った。19年度は特に、ブラックホールと中性子星が共にスピンを持たない場合に着目した。中性子星の質量を太陽の1.3倍として、ブラックホールの質量と中性子星の半径を変化させながらシミュレーションを行い、以下のような結果を得た。 (1)中性子星の半径が12-15kmでブラックホールの質量が太陽の4倍程度であれば、中性子星は合体前に潮汐破壊される。潮汐破壊後、多くの物質はブラックホールに飲み込まれるが、太陽質量の1-15%程度の物質は降着円盤をブラックホール周りに形成する。降着円盤の質量は中性子星の半径に強く依存し、半径が小さいほど円盤の質量は小さい。(2)降着円盤形成時に渦状の腕構造が現れるが、腕同士が巻き込みを起こし衝突する結果、衝撃波加熱が起き、円盤の温度は100億度以上に上昇する。また密度も1兆グラム毎立方センチメートル程度と大変大きくなる。(3)潮汐破壊までは、軌道運動に伴う準周期的重力波が放射されるが、破壊時に重力波の振幅は急激に減衰する。ただし、減衰起こる際の重力波の周波数は、潮汐破壊開始時の周波数とは一致せず、その約1.2から1.4倍の値になる。これは、潮汐破壊が始まってもしばらくは中性子星が単体としてのコヒーレントな構造を保ちながらブラックホールに接近し、大きな振幅を持つ重力波を放射するからである。(4)合体後は、ブラックホールの準固有振動に付随した重力波が放射されるが、潮汐破壊が起こる場合には、その振幅は小さい。具体的には、合体開始時の振幅の10%程度の大きさであり、観測は難しそうである。これらの結果をまとめた論文はすでに掲載が決まっている(M. Shibata and K. Taniguchi, Physical Review D, 2008)。
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