2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19540273
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤井 宏次 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 助教 (10313173)
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Keywords | 量子色力学 / 相転移 / カイラル対称性 / 動的臨界現象 / 高エネルギー |
Research Abstract |
・有限温度密度のQCD相図について,スカラーとベクトル場を含む摸型を用いて解析を行った.QCDの相図に対するアプローチには格子QCDを用いた数値計算があるが,有限密度領域では符号問題のために現時点では無力である.われわれはクォーク間スカラー引力を考慮した従来の模型を拡張し,有限密度領域で重要になるベクトル場をあらわに導入した模型を用いて相構造を議論し、現実のQCD相図に対する知見を推察する.そのための解析的な表式を整備した.真空でのハドロン粒子の性質から,モデルパラメータの値にはある程度の制限があるが,有限媒質中では不確定性も大きいので,パラメータの値としては広い可能性を許して,網羅的な数値評価を現在行っている.一方また,QCDの対称性に依拠したモデルとしてランダム行列模型を取り上げ,相構造研究のための準備を新たに進めている. ・高エネルギー原子核衝突の初期時間発展について,濃密なパートン分布を有効的に記述する古典カラー場の定式化に基づいて,衝突後に系が熱化する過程について考察した.実験データの流体模型による解析から,衝突直後1fm/c程度ですでに局所熱平衡を設定する必要が議論され,「早い熱化」として理論的立場からその妥当性が検討されている.ここでは,衝突初期の非等方な古典グルーオン場配位のまわりで揺らぎの安定性を線形解析した.その結果,磁場的な古典場が存在する場合には不安定性が存在することを明らかにした.静的な場合にはすでに知られていた結果であるが,衝突の幾何を考慮した上で不安定性が残ることを示した点が新しく、不安定モードが「早い熱化」をもたらす可能性がある.電場的配位の場合には,不安定モードは見られない.しかし物理的には質量ゼロ粒子対生成に対する不安定性が含まれているべき点を指摘し,研究を継続している.また,存在する不安定性に関して,バックリアクションの効果を踏まえ,早い局所熱平衡化を達成する機構として働くか検証する予定である. ・QCD相図に存在が期待される臨界点について、特に動的側面に関する現在の理解をまとめ、国際会議で発表した.臨界点の動的な性質の解明として、本年度当初に予定していたO (N)スカラー理論に対するε展開の再解析と動的くりこみ群の適用は、平成20年度に行う.
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