Research Abstract |
交付申請書に記載した「研究実施計画」において,今年度は以下の知見を得た。 1.NMR感度の向上と2-qubit化に向けた条件の絞り込み 昨年度は,通常の冷凍機に試料回転機構を設置し,その最低到達温度において0.1°の精度で試料を制御することを実現した。しかしながら,本研究で局所磁場勾配を検出するプローブとなっているアルミ核スピンが,角度制御に用いるホール素子に少なからず存在していることが判明した。このため,所望の性能を有しつつもアルミ核スピンの含有が殆どゼロであるホール素子を探しだし,このホール素子中のアルミ核スピンの信号が検出されないことを確認した。また,試料回転機構の導入によって,ごく僅かではあるものの本研究にとって致命的となる電気的雑音が装置外から侵入することが分かった。このため,回転機構を全て取り外し,抜本的に各部品の配置を変更して再度,組み上げた。この結果,本研究において実現する全ての温度において,効率的な感度の向上と試料の精密制御を同時に実現することが可能となった。 2.超高感度NMRスペクトルによる局所磁場の勾配の直接観察の試み[本研究事業の目的] 昨年度までの成果として,磁場勾配の大きさは既に十分な値を実現していることが明らかになっている。今年度は,最終目的を実現するための問題点を明らかにした。まず,局所磁場とその勾配を感じている核スピンからの信号の線幅が,磁場の勾配と同程度近くになっていること。この原因としては,アルミ超薄膜に厚みがあることに加えて,シリコンピラー・アルミ超薄膜・パーマロイ磁石の各層の界面において生じている歪みの影響が考えられる。また,更なる高感度実現のために希釈冷凍機を用いれば,予想に反して感度が劣化することが初年度に分かっていたが,今年度はこの要因が希釈冷凍機の構造にあることが判明した。既にこれらを克服するための具体的方法が明らかとなっており,本研究事業の成果を受け,次の研究事業への発展・展開が可能となった。
|