2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19540392
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
中川 尚子 Ibaraki University, 理学部, 准教授 (60311586)
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Keywords | 非平衡定常系 / 熱力学第二法則 / エントロピー / タンパク質 / 揺らぎ / 過剰熱 |
Research Abstract |
生体分子は非平衡状態で機能を発揮し、また分子自体に記憶を有するという著しい特徴を持つメゾスコピック系である。生体分子の機能の解明に向かう理論的枠組みを構築するため、物理学の立場にたった基礎研究として、4年間で (1)強い非平衡状態下での熱力学関係式の完成と発展規約の定式化 (2)生体分子の記憶効果の定量化 (3)記憶効果を内包した系の強い非平衡状態下での発展規約の定式化 に取り組む計画を立てており、本年度は4年計画の3年目に位置する。 今年度は、2年目に得た非平衡系へ拡張した熱力学関係式について、過去の知見との関連を明確にするとともに、物理的意義を追究する研究を行った。まず、2年目に報告した熱力学関係式は線形応答理論の熱力学的表現であることを明確にし、さらに、2次の非平衡度まで正しい熱力学関係式を構成するには線形応答理論に基づく知見では不足があること、熱力学関係式には非自明な相関項(熱と仕事の相関)を加えなければならないことを見出した。また、上記の熱力学関係式の研究を進める一方で、熱力学第二法則を非平衡系に拡張する試みを行った。その結果、熱力学関係式が素直に拡張できる線形応答領域においても、第二法則や熱力学的安定性の議論は決して素直に拡張できるわけではないことがわかった。熱力学的安定性を例にとり、その難しさを「ルシャトリエ=ブラウン原理の非平衡への拡張に伴う制限」という形で明快に示した。このように、今年度の研究成果は、残念ながら、非平衡系への熱力学形式の拡張の難しさを如実に表すこととして得られたが、同時に、非平衡独自の構造追究への足がかりになることが期待される。また、第二法則や熱力学的安定性が特殊な系では拡張できないと結論付けられたが、同時に、多くのマクロ系では拡張できることも示すことができた。生体高分子の数値計算研究では、遅い揺らぎを取り出す統計力学的扱いについて、研究代表者らによる先行研究に不足の部分を発見し、理論の限界など明記するとともに拡張範囲をはっきりとさせる研究を行い、成果を出版した。
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Research Products
(4 results)