Research Abstract |
本研究では様々な物質の水溶液あるいは水を含んだ物質の広帯域誘電分光(BDS)測定を30GHz〜10μHzの周波数域で行い,高温の液体から低温のガラス状態までの誘電緩和を観測する.そこで,ガラス転移温度近傍で溶質と協同運動しα緩和に寄与する水と,水固有の速さで動く副緩和の,2種類の水の一般的な特徴と物質構造依存性を明らかにする。また,水溶液と水以外の液体の溶液で観測される緩和を比較し,水溶液の特異性を調べる 水溶液だけでなくシリカやモレキュラーシーブスの小孔やタンパク質に含まれる水の副緩和でも,その緩和時間や緩和強度のガラス転移温度付近における特徴が,水溶液と共通であることが確認された.これよりこの副緩和が水のJohari-Goldstein緩和(ガラス転移をもらたす協同運動の素過程)であると考えられる結果が得られた. 水以外の物質の溶液として,様々な一価アルコールーpoly(vinyl pyrrolidone)(PVP)溶液の誘電緩和測定により,アルコールとPVPが異なった速さで分子運動を行うが,無限希釈した高分子鎖の運動はアルコールの粘度によって決定されることを示した.一方,アルコールや水などの水素結合性液体の分子運動速の速さは,高分子溶液中の液体分子と高分子の両者の水素結合部位の密度で決定される事がわかった.この結果より,水は様々なアルコールと比べ,共存する溶質によって最も大きくその分子運動の速さを変える物質であることがわかった. また,様々な濃度のプロピレングリコール-PVP混合系で液体からガラス状態までの広い温度範囲で誘電分光測定を行ったところ,水の緩和は水のガラス転移温度近傍で見かけの活性化エネルギーが一定となるが,プロピレングリコールの緩和は様々な物質のα緩和と同様に,温度の低下と共に活性変エネルギーが増加し,水溶液と異なる挙動を示すことが判った.
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