Research Abstract |
モンゴル・トーレ川上流域における地上観測結果をもとに,2003年から2009年までのいずれも2月の積雪下限標高の経年変化を算出したところ,長期トレンドを算出するには至らないが,積雪下限標高は徐々に高くなっていた.衛星データ(1967年から2004年)によると,積雪南限域に相当するモンゴルでは3月から4月の積雪の消失が早まっていることが示されており(IPCC第4次評価報告書),この傾向と整合する.トーレ川上流域の積雪下限標高が年々高くなると,将来,無積雪域が上流域の最高峰(2799m)に達すると外挿されるが,長期トレンドを議論するには年々変動の振幅を評価する必要がある. 一方,流域数値モデルを通年でモンゴル・トーレ川上流域に適用したところ,潜熱は-100から250W/m^2,顕熱は55W/m^2を下回り,流出率は低く,蒸発散量は降水量に近い値となっていた.また,地温に関して,通年で現地観測とモデル結果とを比較したところ,現地観測では地表面から20cm,40cmと深くなるにつれ年間を通じて日変化が小さくなり,モデルでも同様に再現された.積雪分布の影響を調べるためにモデルで降雪量をゼロとすると,冬季はいずれの深度でも,現地観測よりモデルの方が40cm深で5℃以上も冷却する結果となった.積雪がないと土壌から大気への顕熱輸送が増大し,結果として土壌がより低温になるため,地温の日変化に違いが現れたと考えられる. モンゴル北部は永久凍土の南限に位置している.夏(6月から8月)の降水は年降水量の60%以上を占め,冬の降水は少ないことが指摘されているものの,凍土の消長を議論するには精度のよい積雪分布を考慮する必要があると考えられる.
|