Research Abstract |
この年度では,まず,広島県北部の山間盆地に分布する,中新世の弧内堆積盆を充填した浅海成層である備北層群の野外調査を行った.その結果,庄原市に分布する特徴的な角礫岩が,津波堆積物である可能性がきわめて高い事を見いだした.この角礫岩は,カキの仲間であるOstrea gravitestaの殻片を多数含むことから,従来,漠然と"カキ礁"で形成された物と言われてきた.しかし,その堆積相を観察したところ,こうした形成機構では説明できず,上述のように,津波イベントで形成したと考えるのが最も合理的である事がわかった. この角礫岩が堆積した中新世には,日本海の急速な拡大という新生代の北西太平洋域における一大地質学イベントがあった事が知られる.こうしたイベントに関連した地震が引き金となり,弧内堆積盆に津波堆積物を形成したのであろう.今後は,このイベントの前後で底生群集にどの様な変化が生じていたのかを探っていきたい. 上記の調査の他,和歌山県の田辺層群において干潟堆積物を観察し,そこに産するHillichnus類生痕化石の産出層準と共産する生痕化石類について詳しい観察を行った. また,それまで得られていた成果の一部を,2編の論文として公表したほか,Polandで開催されたICHNIA08(第2回国際生痕学会議)で発表した(演題:Ichnofaunal replacements of a Pleistocene wave-cut platfrom to shelf succession under the influence of glacioeustatic sea-level rise,The ichnogenus Schab-cylindrichnus:split or lump?).このほかにも,国内の複数の学会で成果の一部を発表した.
|