Research Abstract |
荷電粒子系の一つの電荷の成分に着目すると,古典系であるか量子系であるかを問わず普遍的に,強結合領域において熱力学的に不安定となる傾向がある。通常は反対符号の電荷の成分(背景電荷)がその傾向を強く抑制する性質をもつために,長年の間,この傾向に起因する現象は現実の系では観測できないとされてきた。本研究の研究代表者は,微粒子プラズマにおいては微粒子が非常に大きくな電荷をもつので,この熱力学的不安定性が実験的に観測できる可能性があることを初めて示した。 本研究では,これまでの一成分プラズマの研究の結果を踏まえ,熱力学的不安定性観測の可能性を具体的に明らかにした。まず,微粒子間の相互作用を湯川型と仮定し,計算機シミュレーションの結果を利用して相互作用の効果をできるだけ正確に取り入れた。その上で,背景電荷に相当する微粒子周辺のプラズマの寄与を具体的に取り入れて微粒子プラズマ全体の熱力学的関数を求め,これに基づいて,熱力学的不安定性による相分離が起き,相分離に伴う臨界点が現れることを示した。その結果,相分離を含む強結合微粒子プラズマの相図が描かれ,通常の気体・液体の相転移・相図との対応が明らかにされた。 具体的な実験において観測するためには,熱力学的性質を記述する無次元特性パラメータを密度,温度などの実験条件に翻訳する必要がある。実験条件が与えられたとき特性パラメータの値は直ちに求まる。しかし,それぞれの実験条件は複数の特性パラメータと関係しているため,特性パラメータから実験条件を求めるのは単純ではない。本研究では,特性パラメータの組によって実験条件を具体的に表現した。その過程で実験的に実現できない特性パラメータの領域があることも示された。 臨界現象の一つに臨界点の付近における密度揺動の増大がある。これに対応して,強結合微粒子プラズマの構造因子の長波長の振る舞いに現れる,臨界点付近の密度揺動の増大率を相図の上に表した。これは,実験において,臨界点にどれだけ近づいたかを判定するための指標となる。 以上の研究により,荷電粒子系が普遍的にもつ熱力学的不安定性が微粒子プラズマにおいて臨界現象として観測できる可能性が実験条件とともに具体的に示され,相図上に臨界点および相分離の様子が求められた。さらに,臨界点付近の密度揺動の増大を相図に対応して示された。
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