Research Abstract |
バナジウム錯体,[V(IV)OCl_2(bpy)]および[V(III)Cl_3(CH_3CN)(bpy)]のジクロロメタン溶液が,新規な振動反応を示すことを発見し,その特徴について研究を行った。その結果,(1)この振動反応は溶媒に強く依存し,ジクロロメタン溶媒でのみ観測される事,(2)振動反応誘導期間は,出発錯体や添加物によって変化する事,(3)温度低下が振動反応の引き金となる事,(4)この温度低下効果は溶存酸素量の増加による事,を明らかにした。 具体的には,本振動反応では,温度低下が始まる直後に橙色が現れ,約1時間後に橙色が薄くなっていく傾向が明確となった。我々は、溶液の温度が低下する事で,溶存酸素量がわずかに増加し,これが溶液組成に摂動を及ぼすことで振動反応の引き金が引かれると考えている。 また,振動反応パターンは,初期溶液の組成によっても大きく変化する事がわかった。ベンズアルデヒドを含まない[V(IV)OCl_2(bpy)]の系では,振動はほとんど観測されなかった。一方,ベンズアルデヒド含まない[V(III)Cl_3(CH_3CN)(bpy)]の系では,頻繁な振動が観測された。3価バナジウムは空気酸化に対して著しく不安定であるため,ここで用いている好気的な環境下では,[V(III)Cl_3(CH_3CN)(bpy)]は容易に[V(IV)OCl_2(bpy)]に酸化される。従って,出発物質として3価錯体を用いた場合でも,実際の振動反応は4価と5価の間で起こっており,3価バナジウム錯体は系中には存在しない。従って,3価錯体の酸化過程で生成されるスーパーオキシドなどが振動挙動に大きな影響を及ぼしている事が分かる。本成果は,バナジウム錯体が誘起する振動反応機構解明に大きな進歩をもたらしたものである。
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