Research Abstract |
本研究の大きな目標である, d10の発光性多核錯体における光励起状態の構造変化の観測と電子状態の相関関係の解明は,銅一価および銀一価六核錯体の合成と,単結晶構造解析実験と, DFT計算により,以下に述べる成果を上げた. ピリジンチオレート誘導体で架橋された銅六核錯体[Cu6(6-mpyt)6](6-mpyt=6-メチルピリジン-2-チオラト)は,固体状態で紫外線を吸収し,室温で赤色,低温で青緑色に強く発光する。低温では2つの発光極大があり,低エネルギー側は金属クラスター中心遷移(CC遷移),高エネルギー側はMLCT遷移に帰属されている。本研究では,配位子の置換基の炭素鎖を一つ伸ばした[M6(6-epyt)6](M=Cu, Ag;6-epyt=6-エチルピリジン-2-チオラト)を新たに合成し,光励起構造解析とDFT計算により,光励起に伴う分子の構造変化を詳しく検討した。 銅(1)及び銀(1)錯体の単結晶を作製し, SPring-8において,光励起X線回折実験を行った.光励起に伴う構造変化を検出するため,実測の構造因子の差(|Fon|-|Foff|)を用いて,差フーリエ合成計算の解析をおこなうと,CuとSがつくる六角形内のCu-Cu原子間距離が収縮する傾向が見られた. DFT計算により,HOMOはCu原子のd軌道, LUMOはピリジン環のπ*軌道であった。CC遷移に関与すると考えられる, Cu原子のs軌道とS原子のp軌道で構成される軌道はそれより高エネルギー順位(LUMO+12)にあり, HOMOとそれらの軌道との2つのエネルギー差は,吸収スペクトルとそれぞれよい一致を示した。 単結晶光励起構造解析により観測されたCu原子の動きは, CC遷移に由来するCu6クラスター骨格の変形が初めて実際に観測されたものと考えられる.
|