Research Abstract |
様々な温度領域で用いられる材料の熱膨張率を制御することは工学的に非常に重要であり,これを目的に,熱収縮をする「負の熱膨張材料」の探索・開発が進められている.しかしながら,材料設計の観点から見た場合,負の熱膨張を発現する物質を創造・設計する明確な指針は未だ見出されていない.この指針を見出すために,本研究では,従来報告されている負の熱膨張物質およびその周辺物質について,負の熱膨張の発現と密接に関係する低エネルギーフォノンを系統的に精査し,負の熱膨張を示す物質に見られる共通な特徴である「フレーム構造」・「強い原子間結合力」とあわせて包括的に検証することで,新たな負の熱膨張物質を創造・設計の指針を確立することを目指す. 当該年度は,フレームワーク構造を有するSc_2W_3O_<12>系化合物ZrV_2O_7系化合物を取り上げた.Sc_2W_3O_<12>系化合物は,構成元素の種類に依存して正・負の熱膨張特性を示す化合物群であり,このうち負の熱膨張を示すSc_2W_3O_<12>と低温で正の熱膨張を示すSc_2Mo_3O_<12>を取り上げた.両者のフォノンの状態密度分布を求め,比較したところ,両者共にフレームワーク構造に由来する特徴的なフォノン状態密度分布を示すことがわかった.この結果をもとに,負の熱膨張が出現するために重要な要因の解明を進めている.もう一方のZrV_2O_7系化合物は特徴的な構造相転移の高温側と低温側で熱膨張率の符号が異なる化合物で,全温度領域で立方晶が維持されるため熱膨張特性の解析に非常に適した物質群である.この化合物群の内,ZrV_2O_7とHfV_2O_7の合成と熱容量測定が終了し,現在,熱膨張特性について詳細な解析・検討を進めている. さらに,代表的な負の熱膨張物質のZrW_2O_8の高温相のフォノン状態密度分布を求めることに成功し,負の熱膨張特性におけるフレームワーク構造の重要性が明らかになった.
|