Research Abstract |
カシワの葉にコロニーを形成するアリ共生型アブラムシTuberculatus quercicolaは,季節,コロニー内密度そしてアリ共生に関わらず,成虫は全て有翅虫になる。前研究課題から,T.quercicolaの集団遺伝構造は低い遺伝子多様性と高い地域間遺伝的分化を示すことが,明らかになった。このことは,(1)T.quercicolaは翅があるにも関わらず,ほとんど飛翔していない,あるいは,(2)選択的な交配が行われている,のどちらかの仮説を提示する。そこで,本研究では,T.quercicolaが実際に飛んでいるのかを検証するために,野外に粘着性トラップを設置し,アリ共生型および非共生型アブラムシの捕獲数を比較した。推定母集団との比率を算出するために,近傍のカシワ内のアリ共生型/非共生型アブラムシの個体数も定点観察した。またT.quercicolaの近縁種のT.sp.A(未記載種)が生息するミズナラ林内にも同様のトラップを設置した。調査は1週間毎で,6月から10月下旬まで行った。実験の結果,非共生型アブラムシ(T.japonicusやT.paiki)は,観察木における個体群が増加するにつれて,トラップに捕獲された個体数も増加した。しかしながら,アリ共生型の2種は個体群が増加しても,トラップに捕獲された個体数は数匹にとどまった。母集団と捕獲数の比率の同一性の検定から,アリ共生型と非共生型の捕獲数の違いは高度に有意であった。このことから,アリ共生型アブラムシは,翅があっても,ほとんど飛翔していないことが明らかになった。そのため,アリ共生型アブラムシは,限られた空間内での同系交配,ボトルネックそして遺伝的浮動が生じやすくなり,遺伝子多様度が低くなったと考えられる。
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