Research Abstract |
生物多様性と種間相互作用が生態系の安定性や生産性などの機能に及ぼす影響を明らかにすることを目的に,今年度は,以下の研究を行った。 わずか3種からなる系でありながら,消費型競争,見かけの競争,栄養カスケードの三つの間接効果が働くために,複雑な挙動を示すギルド内捕食系は,資源から捕食者への直接経路のエネルギー効率が低く,間接経路のエネルギー効率が高いときに安定であるが,直接経路の効率が極端に低くなるとカオスなどの複雑な挙動を示す。今年度は,文献研究などにより,Emmerson and Yearsley (2004)による4種モデル食物網,Bascompte et al.(2005)が解析したカリブ海の食物網データ,Neutel et al.(2008)が研究した土壌食物網でも,エネルギーの直接経路と間接経路の効率の比が系の安定性に寄与していることを明らかにし,学術論文として発表し,ヨーロッパ理論・数理生物学会でも口頭発表した。 また,不均一な生息地で捕食と競争が関わる系の一つとして,メタ群集モデルのレビューを行うことによって,直接および間接競争における共存機構に共通性があることを明らかにし,2009年度に刊行予定の本の1章として発表する。 一方,多数の植物と3種以上の植食者を含む系,多数の植物と植食者と捕食者を含む系については,数理モデルを解析するプログラムを開発し,予備的な数値計算を行った。その結果,多くの種と多数のパラメータを含むモデルでは,パラメータの値の選択と結果の解釈が難しいことが分かったので,さまざまな相互作用についての理論研究および実証研究を広範にレビューし,その結果を2009年度に京都大学学術出版会から刊行される予定の本にまとめた。 これらの結果を踏まえ,来年度に,より多くの種を含む系の解析を精力的に行い,研究の締めくくりとする予定である。
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