Research Abstract |
カラスショウジョウバエ種群(the Drosophila melanica species group)に属するDrosophila tsiganaの地理的集団間の分化の程度を,外部形態比較,食性研究,生殖的隔離機構の存在から詳細に調べた。暖温帯型(東京,京都)と冷温帯型(札幌)では腹部背板の黒色帯パターンに明瞭な違いが見られた。前者雄の第IIから第IV背板はほとんど黒色であるが,後者では中央に深い切れ込みが観察された。暖温帯型は樹液に集まるもののトラップにはほとんど誘引されないが,冷温帯型は発酵果実トラップ法で容易に捕獲できるなど,生態的にも違いがみられた。しかし,雌雄とも生殖器構造上の違いは検出できなかった。生殖的隔離機構を羽化後16日目の個体を用いて無選択法により調べた。暖温帯型雌と冷温帯型雄の交配率は47.6%,逆交配では7.8%となり,統計的に明らかな有意差がみられた。次に,雄選択法によって生殖隔離の程度を調べた。冷温帯型を雄とした場合の隔離指数は0.39と不完全であったが,暖温帯型を雄とした場合の隔離指数は1.00となり,完全な選択性を示した。交配後の隔離機構について,雑種第一代雌雄間,および雑種第一代雄と両親系統雌間で交配させたが,子孫はほとんど得られなかった。このことから,暖温帯型と冷温帯型では遺伝的分化が著しく,その差は種レベルに達しているものと考えられた。コナラの樹液に集まっていたDrosophila tsiganaを捕獲し,そ嚢を超純水液中で解剖し,その中含まれる糖類を高速ガスクロマトグラフィで分析した。グルコース,フルクトースが多く含まれていたが,興味あることにトレハロースが検出された。捕獲した時期が10月初旬であったことから,越冬に備えて体内に蓄積され始めているのか,またはコナラの樹液に含まれる糖が酵母菌の発酵作用によって変化したものか,どちらかの可能性が考えられた。なお,東京都武蔵村山で採集された個体はすべて暖温帯型であった。
|