Research Abstract |
1. 湖沼深底部の貧毛類群集の構成を種レベルで把握するために, 平成20年度は, 予定していだ北海道の5湖沼(渡島大沼, 倶多楽湖, 屈斜路湖, 阿寒湖, パンケトー)に加え, 昨年度の追加調査として, 東北地方の田沢湖, 十和田湖, 伊豆沼で調査を実施した。阿寒湖を除くと, いずれの湖沼の深底部でも貧毛類が得られた。標本は, 各種プレパラートにしたのち, 分類学的観察を行った。大沼と阿寒湖を除く調査湖沼はいずれも, 貧毛類の種レベルでの調査は初めてである。 2. 貧栄養カルデラ湖である倶多楽湖と屈斜路湖では, ロシア極東から記載されたナガレイトミミズ属の一種Rhyacodrilus komaroviが深底部で優占していた。また, この2湖沼を含む北海道の調査湖沼ではいずれもイトミミズ(Tubifex tubifex)が出現し, さらに, 倶多楽湖ではヒメミミズ科の一種と未記載と思われるイトミミズ科の一種が採集された。ヒメミミズ科貧毛類の湖沼深底部での出現は, カムチャッカや極東の湖沼で知られているものの, 日本では北海道を除くと記録がない。したがって, 北海道の湖沼の深底部の貧毛類相は, 極東ロシアと類似しているといえる。 一方, 浅い富栄養湖である宮城県の伊豆沼で, ユリミミズ(Limnodrilus hoffmeisteri)が優占し, フユナガレイトミミズRhyacodrilus hiemalisが出現するという点で, 霞ヶ浦や諏訪湖のファウナとよく似ていた。この種群の出現に地理的要素は薄く, むしろ環境, 特に富栄養化の進行に関連している可能性が高い。伊豆沼はフユナガレイトミミズの分布記録の北限になる。
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