Research Abstract |
1.湖沼深底部の貧毛類群集を種レベルで把握するために,中国地方の2湖沼(湖山池および宍道湖)と九州地方の3湖沼(霧島御池,鰻池藺牟田湖),および関東地方の1湖沼(霞ヶ浦)で新たな標本を採集し,分類学的精査を行った. 2.富栄養湖の鳥取県湖山池では,8種類の貧毛類が確認され,ユリミミズ(Limnodrilus hoffmeisteri)が優占した.この組成は,諏訪湖など中部日本の富栄養湖の組成と類似していた.島根県の宍道湖は無酸素層が発達し,深底部は広く無生物帯となっていることが確認された. 3.九州で最も深い霧島御池の深底部はイトミミズ(Tubifex tubifex)だけで構成されていた.この種類は西日本では地表水からはほとんど記録がない.鹿児島県鰻池は深底部で無酸素層が広がっており,30m付近でユリミミズが採集されたもののそれよりも深い地点では生物は確認されなかった. 4.霞ヶ浦で行った貧毛類の調査を,1980年代の結果と比較すると,出現種に大きな違いは見られないものの,現存量が大きく減少していることがわかった. 5.これまでの調査結果を整理して,深底部に出現する貧毛類相を湖沼間で比較したところ,調査を行った国内の50湖沼から計35種の貧毛類が確認され,群集の組成は湖沼の地理的位置や湖水の栄養状態に応じて大きく異なることが明らかになった.湖水の栄養状態による出現種の違いは,主に,貧酸素に対する耐性の違いによると考えられる,一方,東北や北海道の貧栄養カルデラ湖はいずれも湖底の酸素濃度が高いにも関わらず,貧毛類相は湖沼ごとに大きく異なっていた.酸素ストレスがない湖沼では,集水域の群集組成が湖底に反映されている可能性が高い.
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