Research Abstract |
昨年までの調査でアカサビザトウムシGagrellula ferrugineaにおいてみつかった染色体数あるいは色斑の連続的分化に起因すると考えられる環状重複現象の確証にとくに主眼をおき,日本各地の41集団((青森県3,静岡県19,長野県3,三重県3,鳥取県1,岡山県3,広島県3,山口県2,愛媛県1,高知県1)について,染色体調査をおこなった。四国にアカサビザトウムシと同所的に生息するクロザトウムシGagrellula sp.の20集団(愛媛県2,高知県17,徳島県1)についても調査した。まだすべての分析を終了していないが,主要な結果は次のとおりだった。 静岡県では染色体数は西から東に向かって2n=12→14→16と増加し,その後再び16→14→12と減少することがわかった。天竜川,大井川,安倍川などの主要河川はいずれもこれらの分化に一定の役割を果たしている。ただし,天竜川より西側の地域では,予想されたほど川が厳密な境界にはなっておらず,染色体数多型の集団が目立った。長野県松本市西方の北陸型と関東型の同所的集団では前者が2n=4,後者が2n=16であることを確認した。染色体数は2本しか異ならないが,この同所的集団では大きく異なる色斑は,南周りで連続的に変異する。 中四国では染色体数は瀬戸内海を挟んで中国地方側と四国側では対応するような変異を示すことがわかった。ただし,中国地方西側では愛媛県の中島では2n=14,対岸の山口県周防大島(屋代島)では2n=20で色斑も大きく異なっていた。高知県でアカサビザトウムシに交替して広域分布を示すクロザトウムシはこの地域内でいずれの集団も2n=20を示し,核型も安定していた。
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