Research Abstract |
本研究では,我々の口腔天井を構成する二次口蓋の初期形成過程を理解するため,ヒトX染色体連鎖型口蓋裂の原因遺伝子の一つ・Tbx22に注目し,ニワトリ胚を用いた解析を行っている。昨年までの解析で,Tbx22は口蓋板原基と舌原基下部の限定された部位で発現することを確認している。 本年度は,Tbx22の限定された発現をもたらす分子機構を調べる目的で,顎や舌原基で発現する複数のシグナル分子とTbx22の発現を調べた。(1)複数のBmp遺伝子発現とTbx22の発現を比較したところ,Bmp-7とTbx22の発現はあまり重複せず,舌原基では相補的なパターンであった。(2)両者の発現の関連を調べるために,BMP-7蛋白質を顎や舌原基に局所投与すると,その近傍でTbx22の発現は顕著に抑制された。逆にNoggin蛋白質を局所投与するとTbx22の発現は上昇した。従って,Tbx22はBMP-7により抑制されると考えられた。(3)一方,Tbx22を顎や舌原基で広範に発現させてBmp-7の発現変動を調べたが,顕著な変化は観察されなかった。以上と(2)の結果から,Tbx22の発現はBMP-7によって抑制されるが,逆の制御はないと考えられた。(4)BMP-7を投与すると,別の転写因子・Msx-1の発現が上昇し,Nogginによってその発現は抑制された。口部形成過程でMsx-1は口腔辺縁部で発現しており,Tbx22の発現とはあまり重複していないことから,BMPシグナルはMsx-1を介してTbx22の発現を抑制する可能性が考えられた。他方,Msx-1の発現はTbx22の異所的発現によって抑制されたことから,口腔形成過程においては二つの転写因子が相互に発現抑制することで,固有の発現パターンが作られ,これによって発現部位の特異化と,それに続く口唇や口蓋板の形成に至ると考えられた。
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