Research Abstract |
本研究では,昨年度に引き続き,カンパ類の癌腫病菌であるカバノアナタケ10-U1株に感染したシラカンバ幼植物体No.8に生成する,感染初期における菌感染特異的タンパク質の検出,同定を行った。組織培養によって大量に増殖させた3ヶ月生無菌幼植物体に,菌を接種し(T),対照区(傷を付けたもの(C2),無傷,無菌のもの(C1))を同様に用意した。菌接種後2日目に植物体を収集し,急速凍結して粉末にし,これから緩衝液を用いてタンパク質を抽出した。得られたタンパク質サンプルを二次元電気泳動にかけ,今回はゲルをクーマシーブリリアントブルー染色した。ゲルの画像解析により,対照区のものと比較して菌感染特異的タンパク質を検出した。オキシダティブバーストと全身獲得抵抗性機構に関連しているタンパク質を中心に解析を進めたが,まだ解析途中である。本研究では,また,昨年度に引き続いて、10-U1株に感染した植物体No.8について、組織学及び組織化学的観察を行った。菌接種後,2,4,6,12時問,1,2,10,30日後に植物体を収集し,菌感染部付近の横断面切片を作成した。認照区についても同様に植物体を収集し,横断面切片を作成した。フェノール性化合物の堆積範囲及びぺルオキシダーゼ活性染色範囲は,C2では傷付近に,Tでは木部の細胞壁及び放射柔細胞に観察された。C2におげるフェノール性化合物の堆積は処理後1日目から,Tにおけるフェノール性化合物の堆積は処理後2時間から観察され,ペルオキシダーゼ活性の染色はC2,T共に処理後2時間から観察された。また,フェノール性化合物は,徐々に堆積範囲を広げて行ったが,ペルオキシダーゼ活性の染色範囲は,全処理時聞でC2及びTとも,ほぼ同じであった。さらに,これらの堆積及び染色範囲がほぼ同じであったことから,ペルオキシダーゼがフェノール性化合物の重合に関与し,これによって菌糸の伸長に対する防御の役目をしているのではないかと推察された。本研究では更に,ペルオキシダーゼのアイソザイム分析も行った。処理後2日目のタンパク質サンプルを用いて,等電点電気泳動を行い,ゲルをペルオキシダーゼ活性染色した。その結果,Tにおいて,C1及びC2で見られた塩基性域の3つのバンドが消失していた。塩基性ペルオキシダーゼは,シリンギルモノマーの重合に関与していると考えられているので,Tにおいては,ペルオキシダーゼのアイソザイムが,フェノール性化合物の重合に,より特化したのではないかと推定される。
|