Research Abstract |
今年度は以下の項目について重点的に研究を行った.(1)標高傾度にそったオオシラビソとシラビソの肥大生長の季節変化,(2)標高傾度にそったオオシラビソとシラビソの肥大生長に及ぼす気性の影響,(3)標高傾度に沿ったシラビソ・オオシラビソリンの構造.項目(1)については,解剖学的な方法によって,標高傾度にそって幹の成長開始時期,終了時期がどのように変化するのかを調査した.シラビソのほうがオオシラビソよりも下の標高で優占している.調査の結果,下の標高で優占しているシラビソのほうがオオシラビソよりも低温によって成長が阻害されやすいことが明らかになった.項目(2)については,過去の肥大生長(肥大生長と年輪内最大密度)と気象データから,両種の肥大生長は夏の気温と正の相関を示していたことから,低い温度が成長を阻害していることが示唆された.肥大生長を気象データから予測する統計モデルを構築した.そして,2100年までの気象予測シナリオをモデルに代入して,2100年までの将来の樹木生長について予測を行った.その結果,シラビソの年輪幅とオオシラビソの年輪内最大密度は今後,温暖化によって増加していくことが予測された.項目(3)については,分布上限(2400m),下限(1600m)とその中間(2000m)の標高に調査区を設置し,標高傾度にそった両種の個体群動態について調査した.その結果,高い標高では死亡率が高く,これには撹乱が大きく影響していることが示唆された.また,両種がほぼ等しく混交している標高2000m地点で,2種の動態を調べた結果,2種は発芽定着のための微地形が異なってることによって,種間競争を回避し,共存が成立していることが示唆された.以上のような結果をもとに,来年度はさらに発展的な研究を行っていく予定である.
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