Research Abstract |
2006年,繊毛虫テトラヒメナとヒメゾウリムシのゲノムプロジェクトが終了した。それらの解析によれば,テトラヒメナ全28,000遺伝子のうち他の生物の遺伝子との相同性が確認されたのはおよそ12,000遺伝子だけで,残りの16,000遺伝子は繊毛虫だけが持つ特異的な遺伝子であることが判明した。また,本研究室で行った分子系統解析(β-チューブリン,Hsp90)では,ヤコウチュウは,渦鞭毛虫類の中でもっとも祖先的な系統的位置を占める最も古い系統のひとつであることが判明した(Fukuda & Endoh,Eur.J.Protistology 44:27-33,2008)。これらのことはきわめて示唆的である。繊毛虫類に比較的近縁な原生動物であるヤコウチュウは,赤潮生物を多く含む渦鞭毛虫類に特異的な遺伝子を多数持つことが予想される。このような遺伝子の存在は,他の生物に影響を及ぼすことなく,ヤコウチュウをふくめた渦鞭毛虫類の増殖をコントロールするための新たな方法をもたらす可能性が大きいといえる。全体として,葉緑体をもたない渦鞭毛虫類の基礎研究が不足している現在,小規模とはいえヤコウチュウの核およびミトコンドリアゲノム研究は,さまざまな分野に予想もできない重要な貢献をする可能性がある。 核ゲノムについては,一回の培養から得られるRNAの収量がきわめて少ないため,まだ十分量のRNAは得られておらず,現在cDNAライブラリーを作成中である。ミトコンドリア遺伝子については,Cox1遺伝子の断片をクローニングした。渦鞭毛虫の大多数を占める進化的に新しいコア渦鞭毛虫類のミトコンドリアでは,RNAエディッティングが起こることが知られているが,祖先的な位置を占めるヤコウチュウでは,エディッティングはないことがこれまでに示唆されている(論文準備中)。
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