2009 Fiscal Year Annual Research Report
魚類の外傷治癒過程における免疫-内分泌相互作用に関する研究
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19580227
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Research Institution | Fisheries Research Agency |
Principal Investigator |
矢田 崇 Fisheries Research Agency, 中央水産研究所・内水面研究部, 研究室長 (80372043)
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Keywords | 遺伝子 / 水産学 / ストレス / 生理学 / 免疫学 |
Research Abstract |
内分泌系の情報伝達物質であるホルモンが免疫機能を調節し、逆に免疫系の情報伝達物質であるサイトカインが内分泌機能に影響を及ぼす現象は、有用水産魚種の耐病性研究における新しい分野として注目されている。本研究では、組織損傷部位への白血球の流入をもたらす反応である炎症と、その治癒過程において、成長ホルモン(GH)・インスリン様成長因子(IGF)など免疫機能の活性化に深く関わるホルモンと、腫瘍壊死因子(TNF)など炎症性サイトカインについて、魚類白血球における発現動態を解析することにより、魚類における免疫-内分泌相互作用のしくみを明らかにする。平成19年度には、精度・再現性の高い炎症反応誘起の実験条件について検討し、また炎症反応のマーカーとして有望なサイトカイン・腫瘍壊死因子(TNF)遺伝子の発現を定量するリアルタイムPCRを立ち上げた。平成20年度は、炎症反応誘起後の時間軸を追った解析を行い、治癒過程における免疫-内分泌相互作用の動態について検討した。平成21年度には、ホルモンの投与が炎症性サイトカインに及ぼす影響を調べ、治癒を促進する抗炎症作用の可能性について検証した。IGFの投与によるTNFならびにインターロイキン(IL)-I遺伝子の発現量に対する影響は、脾臓や頭腎ではみられなかったが、鯉では顕著な増加がみられた。損傷を受けた鯉において、IGFの投与が様々な遺伝子の発現におよぼす影響を調べたところ、細胞骨格であるベータアクチン、細胞増殖を調節するサイクリン、アポトーシスを起こすカズパーゼならびに非特異的免疫機能であるリゾチームの上昇がみられた。外界に広く接し損傷しやすい組織である鯉において、ホルモンが炎症性サイトカインの反応性を変化させる可能性がある一方、免疫機能を促進しつつアポトーシスと細胞増殖の昂進により組織の修復を促す効果を持つことが示唆された。
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