Research Abstract |
下等真核微生物の1種である細胞性粘菌Dictyostelium discoideumは,発生過程の最後に胞子塊と柄細胞より成る子実体を形成する。D.discoideumの柄細胞分化誘導因子として,粘菌細胞が産生する低分子脂溶性物質DIF-1が同定されている(1987年)。我々は,このDIF-1が抗腫瘍活性を有することを発見し(1995年),以来,その作用機構の解析と,より有効なDIF誘導体(抗がん剤)の開発を進めてきた。また,正常細胞(non-transformed cells)に対するDIFsの毒性を検討している過程で,「DIF-1が細胞の糖代謝を促進する」ことを発見し,この新しいDIF-1の機能について研究を進めることとした。 本研究において我々は; 1.いくつかのDIF誘導体を化学合成し,それらを用いて化学構造-活性相関を検討した。その結果,比較的強い抗腫瘍活性を有するいくつかの誘導体を見出した(特許出願準備中)。 2.マウス3T3-L1細胞を用いて,DIF-1による糖代謝促進作用の機構を解析し,(1)DIF-1がGLUT1(glucose transporter 1)の細胞膜への移動を促すことによって,細胞の糖取り込みを促進していること,(2)その糖取込みは,PI3-kinaseの阻害剤では阻害されないこと,(3)各種DIF誘導体を用いた化学構造-活性相関の結果,DIF様因子が有する抗腫瘍活性と糖代謝促進活性は,異なる作用機序によること,また(4)DIF様因子の側鎖修飾によって,それら2つの薬理活性を分離できる可能性を示した。 3.細胞性粘菌類から新たな化合物を見出し,生物活性・機能を検討した。
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