Research Abstract |
終末分化した細胞以外の多くの細胞は,細胞外の刺激因子により細胞運動(cell migration)を行うことが知られている。移動の方向が刺激因子の濃度勾配によって規定される遊走はケモタキシス(chemotaxis,化学走性)と呼ばれ,白血球の炎症箇所への遊走,ミクログリア細胞の脳の損傷部位への遊走,癌細胞の浸潤,あるいは線維芽細胞の遊走などが知られている。近年,細胞外ATPがミクログリア細胞においてケモカインとして働くことが報告され,損傷を受けた脳細胞からのATPの放出がミクログリア細胞を引き寄せ,壊死組織等の貪食を促すと考えられている。未分化のマウス胎児由来前駆脂肪細胞株である3T3-L1細胞を用いたところ,ATP(10μM,5min)によって強い細胞膜ラッブリング(波打ち膜)が観察された。ラッフリングは細胞運動の際,進行方向の細胞膜に葉状に広がる仮足(葉状仮足)が形成されることによって見られる。3T3-L1細胞は遊走性を持つ線維芽細胞から確立された株細胞であることから,ケモタキシス・アッセイを行ってみたところ,3T3-L1細胞はATPの濃度勾配に従って正の化学走性を示すことを見出した。しかし,脂肪細胞に分化させた後は培養皿表面に強固に接着し,遊走性は示さなかった。一方,脂肪細胞に分化しないマウス胎児由線維芽細胞であるNIH3T3細胞は,ATPに対する走化性を示さず,また遊走性も3T3-L1細胞ほど強くはなかった。これらのことから,ケモタキシスを含む遊走性は前駆脂肪細胞に特徴的に強い可能性が示唆された。
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