Research Abstract |
本研究の目的は,社会的な問題に発展しているメタボリックシンドロームに対する新たな治療標的として転写因子Nrf1に着目し,その脂質代謝にかかわる遺伝子発現制御ネットワークを解明する点にある。Nrf1の肝臓特異的遺伝子破壊マウスは,肝臓に脂肪が蓄積して,脂肪肝を経て最終的に肝ガンを発症する。このマウスの症状は,ヒトの非アルコール性脂肪肝(NASH)の症状ときわめて酷似しているため,疾患モデルマウスとなることが期待されている。本研究では,Nrf1の欠失による遺伝子発現制御ネットワークの破綻がもたらす脂質代謝異常について,その発症の分子機構を解析することを目標した。 まずNrf1の標的遺伝子を同定するために,Nrf1遺伝子破壊マウスの肝臓を用いてマイクロアレー解析を行った。Nrf1は転写活性化因子のため,遺伝子破壊によって発現が減少している遺伝子に着目したが,脂質代謝に関わる遺伝子は見いだせなかった。このことは,Nrf1は脂質代謝に対して直接は機能せず,本来の生理機能が破綻したことによって間接的に脂質代謝へ影響をもたらした可能性が示唆された。次に,Nrf1の生理機能をもたらす分子基盤として,Nrf1の細胞内局在とタンパク質機能制御について検討した。Nrf1は,通常細胞質の小胞体(ER)に局在し,プロテアソーム依存的なタンパク質分解を受けていることを見いだした。すなわちNrf1の機能発現には,この小胞体局在とタンパク質分解による機能抑制を解除する活性化シグナル・ストレスが存在することを見いだした。そこで,Nrf1タンパク質の分解機構を解明する目的で,Nrf1結合タンパク質を検索した結果,ユビキチン結合酵素のアダプターを同定した。したがって,Nrf1は,ユビキチン-プロテアソーム依存的にタンパク質分解を受けている可能性が高いことが分かった。
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