Research Abstract |
局所脳虚血に対する血管内皮細胞の保護(vasoprotection)が,脳梗塞に対する新しい治療戦略となりうるかについて検討を行った.具体的には,脳梗塞急性期において脳虚血中心近傍に発現し,血液脳関門の破綻に関与する可能性が示唆されている血管内皮細胞増殖因子(vascu1ar endothelial growth factor;VEGF)を治療標的分子とし,血栓溶解薬「組織型プラスミノゲン・アクチベーター(t-PA)とVEGFシグナル・カスケードを抑制する治療薬の併用が,脳梗塞体積,浮腫体積,さらにt-PA療法後の出血に与える影響を検討した. まずこの検討のために,ヒト脳梗塞に対する血栓溶解療法時と病態が類似するラット脳塞栓モデルの作成を試み,ラット自家血血栓を用いた中大脳動脈の閉塞により,均一な体積の脳梗塞を作成することに成功した.さらに血管閉塞による局所脳虚血の24時間後に,TTC染色による脳梗塞体積の測定とspectro-photometric assayによる出血量の測定を行い,虚血後1時間目のt-PA投与では,著明に脳梗塞・脳浮腫体積が縮小するのに対し, 4時間目の投与では脳梗塞・脳浮腫体積の改善はなく,むしろ顕著な脳出血を合併し,運動機能および生命予後が悪化することを示した.この結果は,本モデルが,ヒトにおける脳梗塞の血栓溶解療法と病態が類似することを示唆し,治療薬の検討に有用であると考えられた.さらに本モデルに対する抗VEGF中和抗体の経静脈的投与は,血液脳関門を超えて脳内に入り,脳実質のVEGF発現を抑制することをWestern blot法および免疫染色にて明らかにした.以上の結果は, t-PAと抗VEGF中和抗体の併用が,脳内におけるVEGF抑制に伴う血液脳関門の保護に有効であることを示すもので,今後の治療への応用が期待できる.
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