Research Abstract |
手術侵襲後の生体には恒常性を維持するべく炎症性サイトカイン産生を中心とした生体防御反応が起こるが,その反応が過剰であると感染症などの術後合併症が引き起こされる。われわれは,これまで脂肪細胞特異的に産生され,抗炎症性作用を有するadiponectin産生が術後炎症性生体反応の制御に関与し,その侵襲後の変動が手術侵襲度に依存していること(成人病と生活習慣病2008),さらに,大腸癌症例を対象とした検討において,術後感染症発生群では非発生群に比べ,術前から術後7病日まで血清adiponectin値が有意に低値であること,術前adiponectin値の低下が術後感染症発生の独立した危険因子であること,その機序としてadiponectin産生の低下は抗炎症性作用の抑制から術後の過剰な炎症反応を惹起し,易感染性が誘導されることを報告してきた(J Surg Res(in press))。平成20年度は,研究実施計画書に基づき,ω-3系脂肪酸を強化した免疫賦活経腸栄養剤の術前投与によるアディネクチン濃度へのmodulation効果,術後の炎症性メディエーター産生の制御効果を検討した。大腸癌症例を対象とし,栄養剤投与群には,IMPACT[○!R](味の素ファルマ)を術前5目間,1日750mlを通常の食事摂取の上に経口摂取させた。非投与群は,通常食のみとした。投与前,術前(投与後),術後1,3,5,7病目の血清adiponectin,leptin値をELISA法にて測定した。しかし,術前(投与後),術後において,両群間に血清adiponectin,leptin値の有意な差は認めなかった。また,術後のWBC,CRP値に有意差を認めなかった。これらの結果から,これまで報告されている免疫賦活経腸栄養剤の術後合併症抑制効果は,今回検討した脂肪細胞機能の制御より,われわれが報告してきた免疫系への賦活作用に寄与しているところが大きいと考えられた(Dis Colon Rectum2006)。
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