Research Abstract |
まず,脂肪由来幹細胞を培養する際の培地についての検討を行った。一般的に用いられている培地であるDMEMと血管内皮細胞増殖培地(EGM-2)との比較を行ったところ,EGM-2を用いた場合,対照群(DMEM)と比較して倍加時間が有意に短縮した。総細胞数の経時的変化からは,EGM-2を用いると,細胞数はより急速に増加し,より早期に定常期に入ることが判明した。Flow cytometryでは,CD31などの内皮細胞マーカーの発現において両群に有意な差は見られなかった。また,EGM-2で培養した細胞群でも,脂肪,軟骨,骨への分化誘導が可能で,定量的評価においてもDMEMとの有意な差は認めなかった。EGM-2は脂肪由来幹細胞の持つ間様系への多分化能を保持したまま,その増殖能を促進することができるため,短時間に多くの細胞を確保する際に有用であると考えられた。次に,種々の細胞増殖因子(VEGF, FGF-2, HGF, PDGF)の影響について検討を行った。DMEMに各細胞増殖因子を添加したところ,FGF-2とPDGFは濃度依存的に脂肪由来幹細胞の増殖を促進した。また,脂肪由来幹細胞が自ら分泌している細胞増殖因子への影響をReal-time PCRを用いて調べたところ,FGF-2を添加することにより,HGFのmRNA発現が著明に亢進することが判明した。培養上清をELISAで調べることにより,FGF-2によるHGF分泌の促進が蛋白レベルでも確認された。また,阻害剤を用いた実験から,このFGF-2によるHGF分泌の亢進には,MAPキナーゼカスケードの中のJNKが大きく関与していることが分かった。最後に,脂肪由来幹細胞に対する低酸素の影響を検討したところ,低酸素状態(1%)で培養した場合にVEGFの発現が亢進していた。これらの研究実績から,脂肪由来幹細胞は細胞増殖因子や低酸素など,周囲の環境因子によって増殖や自らの細胞増殖因子分泌が調整されていることが分かった。また,このような環境因子による調整が,脂肪組織における血管新生に大きく関与している可能性が示唆された。
|