Research Abstract |
骨特異的蛋白質として見出されたSPARCは,分子量43,000の糖タンパク質である.臨床検体を用いた解析から,多くの種類の癌組織において,SPARCの発現と病期や予後が相関することが報告されている.その一方で,SPARC遺伝子を強制発現させると癌細胞の増殖が抑制されるという報告や,アポトーシスを誘導するという報告など,相反する報告が多い.そこでSPARCノックアウトマウスと同系のB16-BL6メラノーマを用いて,メラノーマの転移へのSPARCの役割について検討した結果,肺への転移結節数はワイルドタイプよりもSPARCのノックアウトマウスにおいて低頻度であった.多方,私達は,この高転移性B16-BL6メラノーマ細胞を酸性pHの培地で培養するとmatrix metalloproteinase-9(MMP-9)の発現が誘導されることを見出し,その細胞内情報伝達機構について検討してきたところ,カルシウムの流入によるホスホリパーゼD→MAPキナーゼ経路の活性化と酸性スフィンゴミエリナーゼによるNFκBの活性が関与していることを明らかにしてきた.また,メラノーマ細胞を酸性pHで培養すると,通常の培養条件では見られなかったC末端側のSPARC断片が検出された.そこで,SPARCをプロセッシングできる候補となる酵素が酸性pHで誘導されているかについてcDNAマイクロアレイを用いて検討したところ,MMP-9の他に,MMP-11も発現誘導されていることがわかった.このことから,これらの酵素がSPARC生理的プロセッシングに関与していることが示唆された.また,メラノーマの転移に影響を与える宿主側の原因について検討するため,SPARCノックアウトマウスの肺における遺伝子発現についてcDNAマイクロアレイにて解析したところ,いくつかの分子の,発現の増減が観察された.現在これらの遺伝子発現と,SPARC断片との関わりについて,検討を進めている.
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