2007 Fiscal Year Annual Research Report
戦争体験がその後の人生に与えた影響〜心的外傷の観点から見た学童疎開体験
Project/Area Number |
19592608
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
出口 禎子 Kitasato University, 看護学部, 教授 (00269507)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
武井 麻子 日本赤十字看護大学, 看護学部, 教授 (70216836)
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Keywords | 戦争体験 / 学童疎開 / 集団生活 / PTSD / 生活体験 |
Research Abstract |
日本には、太平洋戦争時に学童疎開を経験した人が58万人いるといわれているが、学童の集団生活の実態やそれらの体験が、後の人生にどのような影響を与えたのかについてはあまり明らかにされていない。そこで私達は、集団疎開の体験者を対象に、当時8歳から12歳であった子ども達の集団生活の実態とその後の人生に与えた影響を調査し、心的外傷後ストレス障害の観点から分析したいと考えた。研究参加者は全国疎開学童協議会から紹介を受けた疎開生活の体験者である。一人約2時間のインタビューを1回から3回行い許可を得て録音した。その録音テープから逐語録を作成した。逐語録から個々の体験者の語りをもとに、個人にとっての学童疎開体験の実態と、幼い頃に親元を離れて疎開し集団生活を送るという特異な体験が、その後の人生の中でどのような意味を持つのかを分析した。疎開生活が辛かったと語る人たちの多くは共通して「飢餓」「いじめ」「寂しさ」などをあげたが、主にいじめの対象となっていたのは幼かった3年生であったことや、いじめの発生は付き添った大人との関係や一部屋に振り分けられた子どもの数などによっても大きな違いがあったことがわかった。またいじめに加担したりいじめの目撃者となった人達の中には、現在でも罪悪感を抱えている人達がいた。寂しさについては疎開した土地柄や兄弟一緒に疎開したか否かなどの状況により多様な体験が語られた。この他、戦後60年経った現在でも集団になじめない感覚をもっていたり、贅沢をすることに罪悪感を感じると語る人もおり、それぞれに受けた心の傷は、見えない形で今も影響を及ぼしていることが明らかになった。これらの語りは、統計的な情報とは異なり個人の語りを通して得られたものであり、今後、心的外傷という体験を考える上で貴重な示唆を得ることができると考える。
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